男30歳 / 2006年05月31日
テニスを愛する皆様、ご機嫌いかがですか?勝村政信です。いよいよ全仏も始まり、テレビにかじりつき、アドレナリンが出まくっているんじゃないでしょーか?テニスももちろんそうですが、スポーツの試合中の選手が集中している時の「静寂」って、ちょっとたまんないですよね。球技だと、テニスでサーブの前のトスをあげる前とか、ゴルフのグリーンで長いパットを打つ前とか、サッカーでロナウジーニョが相手を抜く前の瞬間とか。空から天使がなだれこんで来るみたいな気がします。全身に空を飛べるくらいの鳥肌が立ちます。トップアスリートが自分を削る様な練習をして、鋭利な刃物の様になり、トップコンディションに作り上げ、競い合う。しかも、天候、グラウンドコンディション、他にも日常の細かい事が勝敗を左右する。つい先日もシャラポワをハトが助けてくれたり、、、有機的なスポーツならではの醍醐味です。
僕も、昨日で舞台が無事千秋楽を迎え、ちょっと息を吸えている感じです。
僕らも一応プロと呼ばれていますが、毎日稽古するわじゃないし、毎日言葉や発音を練習するでもないし、毎日身体を鍛えるわけでもないし(ま、役者が全員身体鍛えていて、全員がムキムキマッチョだったらそれはそれで変だけど)だから、スポーツのトップアスリートの戦いを観る時には、軽い嫉妬と羨望を感じています。もちろんゲーム観戦中は全身鳥肌だらけですが、、、
たまにこのまま飛べるんじゃないか?なんて思うときもあります。ま、鳥は肌で飛ぶ訳じゃありませんが、、、
とにかく、決勝まで鳥になりっぱなしで、最高峰のテニスを堪能したいと思っています。
で、鳥になっている今回は、30歳の時に出会った、色々な事柄について書いてみました。
『男30歳』
30歳の時色々考えた。男が30歳を迎える。唯事ではない。10代、20代は男の子である。男は30代からが「男」である。と思う。沢山の経験を積み、男としての歴史が始まる。僕は役者である。これからどんな男の役が迎えに来てくれるか想像も出来なかった。ある大手プロダクションのプロデューサーが会いたいと連絡をくれた。期待に胸膨らませ、待ち合わせのテニスコートの見える喫茶店に足を運んだ。舞台の話だった。「あなたにやって頂きたいのはこの役なんですが。」分厚い台本をいただき、役の名前に目を通した。
「もぐらのモーリー」と書いてあった。
目の前が暗くなった。何度読み返しても「もぐら」と書いてあった。
30歳を迎えた男に最初に来た役が「もぐら」。僕が演劇を始めたのは、世界的にも有名な蜷川幸雄さんの劇団である。その後も鴻上尚史さん率いる第三舞台と言う超人気有名劇団に入り、木野花さんや、宮本亜門さん、鈴木裕美さん、鈴木勝秀さん、野田秀樹さん、岩松了さん、串田和美さん、福田陽一郎さん、内藤裕敬さん等々、演劇界を代表する、才能溢れる演出家と一緒に仕事をしてきている役者である。なのに「もぐら」。
飲んでいたコーヒーの味もわからず、相手の話も聞こえず、ただ時間が四角く流れて行った。家に帰って台本を叩き付けた。
数日後、ロンドンから演出家がわざわざやって来て、テニスコートの見える喫茶店で会う事になった。戯曲や演出、海外でのこの舞台の評判などを細々と説明された。どーしてもあなたにこの役を引き受けて欲しいと懇願された。何を飲んでいたかもわからず、演出家の説明も通訳の言葉も耳には届いて来なかった。ただ、喫茶店から見えるテニスコートで行われていた、ミックスダブルスの試合で、セルジオタッキーニの白いワンピースを着た女性のバックハンドのボレーに心奪われていた。
結果、引き受けてしまった。
数日の間、僕は仮死状態にあった。抜け殻になってしまった。
気がつくと、大きなやどかりの様なものに、僕の身体は不法に占拠されていた。
自分の中に住み着いた異物はさらに大きくなり、僕を内側から引き裂いた。30歳を迎えた男の初めての役は「もぐら」であった。
ちなみに、相手役のひきがえるは根津甚八さん。ねずみが布施明さん。あなぐまが仲谷昇さん。物凄いメンバーである。しかもかなり評判が良かったみたいで、 どんな作品も再演をしないと決めていた僕が、2年後に再演までしてしまった。
今でも少し気を許すと、あの時のやどかりの様なものが僕の身体でうごめき始める。
僕も、昨日で舞台が無事千秋楽を迎え、ちょっと息を吸えている感じです。
僕らも一応プロと呼ばれていますが、毎日稽古するわじゃないし、毎日言葉や発音を練習するでもないし、毎日身体を鍛えるわけでもないし(ま、役者が全員身体鍛えていて、全員がムキムキマッチョだったらそれはそれで変だけど)だから、スポーツのトップアスリートの戦いを観る時には、軽い嫉妬と羨望を感じています。もちろんゲーム観戦中は全身鳥肌だらけですが、、、
たまにこのまま飛べるんじゃないか?なんて思うときもあります。ま、鳥は肌で飛ぶ訳じゃありませんが、、、
とにかく、決勝まで鳥になりっぱなしで、最高峰のテニスを堪能したいと思っています。
で、鳥になっている今回は、30歳の時に出会った、色々な事柄について書いてみました。
『男30歳』
30歳の時色々考えた。男が30歳を迎える。唯事ではない。10代、20代は男の子である。男は30代からが「男」である。と思う。沢山の経験を積み、男としての歴史が始まる。僕は役者である。これからどんな男の役が迎えに来てくれるか想像も出来なかった。ある大手プロダクションのプロデューサーが会いたいと連絡をくれた。期待に胸膨らませ、待ち合わせのテニスコートの見える喫茶店に足を運んだ。舞台の話だった。「あなたにやって頂きたいのはこの役なんですが。」分厚い台本をいただき、役の名前に目を通した。
「もぐらのモーリー」と書いてあった。
目の前が暗くなった。何度読み返しても「もぐら」と書いてあった。
30歳を迎えた男に最初に来た役が「もぐら」。僕が演劇を始めたのは、世界的にも有名な蜷川幸雄さんの劇団である。その後も鴻上尚史さん率いる第三舞台と言う超人気有名劇団に入り、木野花さんや、宮本亜門さん、鈴木裕美さん、鈴木勝秀さん、野田秀樹さん、岩松了さん、串田和美さん、福田陽一郎さん、内藤裕敬さん等々、演劇界を代表する、才能溢れる演出家と一緒に仕事をしてきている役者である。なのに「もぐら」。
飲んでいたコーヒーの味もわからず、相手の話も聞こえず、ただ時間が四角く流れて行った。家に帰って台本を叩き付けた。
数日後、ロンドンから演出家がわざわざやって来て、テニスコートの見える喫茶店で会う事になった。戯曲や演出、海外でのこの舞台の評判などを細々と説明された。どーしてもあなたにこの役を引き受けて欲しいと懇願された。何を飲んでいたかもわからず、演出家の説明も通訳の言葉も耳には届いて来なかった。ただ、喫茶店から見えるテニスコートで行われていた、ミックスダブルスの試合で、セルジオタッキーニの白いワンピースを着た女性のバックハンドのボレーに心奪われていた。
結果、引き受けてしまった。
数日の間、僕は仮死状態にあった。抜け殻になってしまった。
気がつくと、大きなやどかりの様なものに、僕の身体は不法に占拠されていた。
自分の中に住み着いた異物はさらに大きくなり、僕を内側から引き裂いた。30歳を迎えた男の初めての役は「もぐら」であった。
ちなみに、相手役のひきがえるは根津甚八さん。ねずみが布施明さん。あなぐまが仲谷昇さん。物凄いメンバーである。しかもかなり評判が良かったみたいで、 どんな作品も再演をしないと決めていた僕が、2年後に再演までしてしまった。
今でも少し気を許すと、あの時のやどかりの様なものが僕の身体でうごめき始める。